私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です

18 断罪イベントは必須?

「アシュリー・トレディール、私は今ここでそなたとの婚約を破棄する」

 王子たちの学年の卒業パーティーで、フランシス殿下は婚約者であるアシュリー様にそう言った。

「私が心から愛するのはキャロラインだ」

 断罪エンドは必須なのかと疑問はあるが、これだけ大勢の前ではっきり言い切れば、周りも軽視できないだろう。

「わかりました。しかし、私と殿下の婚約は、個人の問題だけではすみません。陛下や私の父を交えてきちんと今後話し合いましょう」

 しかし国外追放などの処罰は免れた。

 私は、本来ならこの場にいるはずがないのだが、気になることがあってカーテンの裏から会場の様子を覗っている。

 断罪イベントは予め打ち合わせで決められていたこととはいえ、心臓に悪い。

「わかった。しかし、キャロラインを愛しているという私の気持ちは変わらない」
「そうですか。ですが、王家に嫁ぐということは、好きだけで済むものではありません。そのお覚悟があなたにありますか?」

 扇で顔を隠し、お嬢様がキャロラインに問いかける。

 周りには王子にフラレたせいで怒りに震えているように見えるが、そうではなさそうだ。


 殿下たちもお嬢様の体調について気づいているようだ。

「お嬢様!」

 しかし、遂に限界が来て、お嬢様の体がぐらりと揺れた。

 私は慌てて駆け寄ったが、オーガスト様の方が早かった。

 婚約破棄宣言に続き、破棄された方のお嬢様が倒れたので、一層周りが騒がしくなる。

 これでは殿下たちの方が悪者に見える。

 しかしそんなことは構っていられない。

 もうすぐ病が完治すると言っていたのに、なぜこんなふうになるのだろう。
 
 お嬢様はそのまま迎えに来たブライトン先生と共に屋敷に戻った。

 私も屋敷までは付き添ったが、すぐにお嬢様は離れの建物に運び込まれてしまった。


 断罪イベントは強制終了となり、婚約破棄はお嬢様の回復を待って、きちんと手続きされることになった。

「もうこれで最後だ」

 そしてお嬢様が倒れてから三日後、旦那様が奥様に話しているのを偶然聞いた。

「では、とうとう…」
「ああ、長年苦しんできたが、これであの子もようやく解放される」
「アシュリーにもう会えないのは残念な気もします」

 奥様の声が震えている。泣いているのだ。

(もう会えない? まさか…これは死亡エンド?)

 シナリオになかったことが次々と起こる。

 悪役令嬢は悪役令嬢にならなくて、ヒロインと攻略対象の王子は始めから両思いで。

 悪役令嬢のはずのお嬢様が、まさか「死ぬ」?

「お、お嬢様」

 私はまさかと思いながらも、いてもたっても居られず、離れの館に向かって走った。
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