私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です
2 最初の試練
ここは「青い薔薇と救世の乙女」、略して「薔薇おと」の世界。
ヒロインは、平民でありながら特待生として貴族の子女が通う王立学園に入学し、王子や宰相の息子、騎士団団長の息子に隣国の王子などと知り合い、交流を深めて最後には攻略対象の一人とハッピーエンドを迎える。
彼女が特待生に選ばれた理由は、魔法が使えるから。
そうこの世界は魔法が使える。ただし使えるのはほんの一握りの人だけ。王族貴族でも使えない人もいる。しかも呪文で「炎よ!」とか「風よ!」とか「ウインドカッター!」なんて叫ぶのではなく、綿密に組み立てた術式、図形で発動するものなので、正しく術式を理解して学ばないと使いこなせない。魔法使いというよりは研究者みたいなものだ。
アシュリーはそこに出てくる悪役令嬢で、彼女も魔法が使える。小さい時に自分のせいで母と生まれてくるはずだった妹を亡くし、そのせいで父親からも愛されず育った。
そして婚約者の王子とヒロインが近づくのをことごとく邪魔をしてメイドや取り巻きを使って苛め、最後には断罪されて国外追放。ヒロインと攻略対象の好感度次第で処刑もある。
コリンヌはその立場からどのエンディングでも処刑は免れない。
「それは絶対いや!」
「わっ」
思わず叫んで起き上がると、そこは見知らぬ部屋だった。すごく大きくてふかふかのベッドに私は寝ていた。
部屋のつくりも広くて豪華。とても使用人の部屋ではない。
「びっくりしたぁ急に叫んで起きるんだもの」
目の前に悪役令嬢、もといアシュリーが座り込んでいて、目を丸くして覗き込む。
「大丈夫?」
「あ、はい」
そうか、私、気を失ったのか。
ピタリと綺麗な彼女の手が額に当てられ、彼女がもう片方の手を自分の額に当てる。
「お母様がね、お熱がある時にいつもこうやってくれるの」
天使の笑顔でアシュリーが笑う。
「あの、ここって?」
「私の部屋だよ」
「ええ!ももももも申し訳ありません」
「あ、だめよ」
慌てて抜け出そうとする私に彼女が抱きつき引き留める。
「コリンヌはここで私といるの。だってコリンヌは私の専属でしょ?ほら、他のお友達も」
私の横を見ると、たくさんのぬいぐるみやお人形が同じように並べられている。
彼女にとって専属とはこのぬいぐるみたちと同じ意味らしい。
「だめです。お嬢様、私はお嬢様の使用人です」
「いや、アシュリーって呼んで。コリンヌは私の専属でしょ。お嬢様じゃなくアシュリーって呼びなさい。これは命令です」
びしっと指を立てて指差し命令する姿は六歳ながら既に上に立つ者の貫禄があった。
「で、でも、それは……」
主人を名前で呼び捨てなど、周りに知られたら大変だ。
「じゃあこうしましょう。人前ではお嬢様でいいわ。でも二人の時はアシュリーね。それならいいでしょ?」
困った顔をする私を見て、彼女が提案する。
「私、あなたが気に入ったの。とても綺麗な黒い髪をしているのね。それにこの鮮やかな青い瞳」
アシュリーがうっとりと私の肩まで伸びた髪を撫でる。
「あ、ありがとうございます。でもお嬢様の髪も」
「アシュリーよ。名前で呼んでくれなくちゃ。お仕置きするから」
「お、お仕置き」
その言葉にここで彼女の言うとおりにしないと怒り出すのではないかと怖じ気づく。
「そうよ、お仕置き」
つんつんと私の頬をつつき、もうすぐ六歳になるとは思えない小悪魔ぶりで微笑む。
「ア、アシュリー」
「ふふ、よろしくね、コリンヌ」
言われるままにそう呼ぶと、満足そうにアシュリーは笑った。
ヒロインは、平民でありながら特待生として貴族の子女が通う王立学園に入学し、王子や宰相の息子、騎士団団長の息子に隣国の王子などと知り合い、交流を深めて最後には攻略対象の一人とハッピーエンドを迎える。
彼女が特待生に選ばれた理由は、魔法が使えるから。
そうこの世界は魔法が使える。ただし使えるのはほんの一握りの人だけ。王族貴族でも使えない人もいる。しかも呪文で「炎よ!」とか「風よ!」とか「ウインドカッター!」なんて叫ぶのではなく、綿密に組み立てた術式、図形で発動するものなので、正しく術式を理解して学ばないと使いこなせない。魔法使いというよりは研究者みたいなものだ。
アシュリーはそこに出てくる悪役令嬢で、彼女も魔法が使える。小さい時に自分のせいで母と生まれてくるはずだった妹を亡くし、そのせいで父親からも愛されず育った。
そして婚約者の王子とヒロインが近づくのをことごとく邪魔をしてメイドや取り巻きを使って苛め、最後には断罪されて国外追放。ヒロインと攻略対象の好感度次第で処刑もある。
コリンヌはその立場からどのエンディングでも処刑は免れない。
「それは絶対いや!」
「わっ」
思わず叫んで起き上がると、そこは見知らぬ部屋だった。すごく大きくてふかふかのベッドに私は寝ていた。
部屋のつくりも広くて豪華。とても使用人の部屋ではない。
「びっくりしたぁ急に叫んで起きるんだもの」
目の前に悪役令嬢、もといアシュリーが座り込んでいて、目を丸くして覗き込む。
「大丈夫?」
「あ、はい」
そうか、私、気を失ったのか。
ピタリと綺麗な彼女の手が額に当てられ、彼女がもう片方の手を自分の額に当てる。
「お母様がね、お熱がある時にいつもこうやってくれるの」
天使の笑顔でアシュリーが笑う。
「あの、ここって?」
「私の部屋だよ」
「ええ!ももももも申し訳ありません」
「あ、だめよ」
慌てて抜け出そうとする私に彼女が抱きつき引き留める。
「コリンヌはここで私といるの。だってコリンヌは私の専属でしょ?ほら、他のお友達も」
私の横を見ると、たくさんのぬいぐるみやお人形が同じように並べられている。
彼女にとって専属とはこのぬいぐるみたちと同じ意味らしい。
「だめです。お嬢様、私はお嬢様の使用人です」
「いや、アシュリーって呼んで。コリンヌは私の専属でしょ。お嬢様じゃなくアシュリーって呼びなさい。これは命令です」
びしっと指を立てて指差し命令する姿は六歳ながら既に上に立つ者の貫禄があった。
「で、でも、それは……」
主人を名前で呼び捨てなど、周りに知られたら大変だ。
「じゃあこうしましょう。人前ではお嬢様でいいわ。でも二人の時はアシュリーね。それならいいでしょ?」
困った顔をする私を見て、彼女が提案する。
「私、あなたが気に入ったの。とても綺麗な黒い髪をしているのね。それにこの鮮やかな青い瞳」
アシュリーがうっとりと私の肩まで伸びた髪を撫でる。
「あ、ありがとうございます。でもお嬢様の髪も」
「アシュリーよ。名前で呼んでくれなくちゃ。お仕置きするから」
「お、お仕置き」
その言葉にここで彼女の言うとおりにしないと怒り出すのではないかと怖じ気づく。
「そうよ、お仕置き」
つんつんと私の頬をつつき、もうすぐ六歳になるとは思えない小悪魔ぶりで微笑む。
「ア、アシュリー」
「ふふ、よろしくね、コリンヌ」
言われるままにそう呼ぶと、満足そうにアシュリーは笑った。