私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です
3 お嬢様の病気
それからメイド長に連れられて、私は帰宅した公爵に改めて挨拶に向かった。
「やあ、君がコリンヌだね」
私を待っていた公爵は優しそうな笑顔で、新しく来た使用人の娘を出迎えた。
その場にはお腹の大きな奥様と、アシュリー様もいた。
「公爵様。お初にお目にかかります。コリンヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
すらりとした栗色の髪とハシバミ色の瞳をした公爵は、しかし夫人と並ぶと少し華やかさにかけていた。アシュリーの容姿は明らかに母親譲りだった。
「しっかりした挨拶ができるのだな。四歳と聞いていたが、利発な子のようだ。これなら二つ上のアシュリーともうまくやっていけそうだな」
そりゃあ一応精神年齢は十六歳だし、これくらいは言える。
「すっかりアシュリーはあなたが気に入ったみたいね」
「はい、お父様お母様、私はコリンヌが気に入りました」
アシュリー様は私のところまで歩いてきて、手を握る。
「あの奥様は今何ヵ月なのですか?」
気になることを訊いてみた。
階段から落ちたのは子どもを産む前。その間を乗りきれば、彼女もお腹の子も助かるはずだ。
「八ヶ月目に入ったところなのよ」
ということは出産まで後二ヶ月。それまでは気を付けないといけない。
「ねえ、ご挨拶はもういい?コリンヌに邸を案内してあげてもいい?」
「ああ、もうすぐ夕食の時間だからそれは明日にしなさい」
「ええ~」
公爵に言われて明らかに不満そうにアシュリーが口を尖らせる。
「アシュリーはもうすぐお姉さんなんだから我が儘言わないの。ほらお薬も飲まないと」
「あれ苦いのよ。飲みたくない」
薬と聞いて驚いた。アシュリーが病弱だという設定だっただろうか。
「どこかお悪いのですか?」
言ってから訊いて良かったのかと不安げに見渡すと、夫妻は黙って頷く。
「薬さえ毎日きちんと飲んでいれば大丈夫なの。あなたもこれからアシュリーの側にいることになるのだから、覚えておいてね」
「はい」
毎日欠かさず飲まなければいけない薬があると聞いて、前世の自分を思い出す。苦い薬を飲まされて何度も検査のために血を抜かれた。体力もなかった。
別のメイドが持ってきたコップを彼女の前に差し出す。
「これはこの子のために特別に調合されているの。あなたはこの子が毎日欠かさず飲んでいるか確認してね」
「は、はい」
「お母様ひどい。コリンヌに見張らせるなんて」
「お嬢様、お嬢様のためなんです。頑張って飲みましょう」
良薬口に苦しという。良く効く薬ほど苦く感じるものだ。
「じゃあ飲んだらご褒美をくれる?なら頑張れるわ」
「ご褒美?」
「それから飲んでいる間、側に座って手を握っていて」
「ええ!」
「だめ?」
こてんと首を傾げて小悪魔のような上目遣いでそう言われたら、断りたくても断れない。
「コリンヌ、アシュリーの言うとおりにしてくれないか、いくらこの子とためとは言え、苦い薬を飲ませるのは可哀想でね」
「そうよ。それでこの子が飲んでくれるなら」
「わかりました」
三人に見つめられ、名前呼びに続いて今度も断ることができなかった。
その日から彼女が薬を飲む間、側に座って手を握っていてあげるのが日課になった。
彼女が言ったご褒美とは、飲み終わった後に頭を撫で撫ですることだった。ただし、するのはアシュリーで、なぜか私の頭を撫でられた。
「やあ、君がコリンヌだね」
私を待っていた公爵は優しそうな笑顔で、新しく来た使用人の娘を出迎えた。
その場にはお腹の大きな奥様と、アシュリー様もいた。
「公爵様。お初にお目にかかります。コリンヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
すらりとした栗色の髪とハシバミ色の瞳をした公爵は、しかし夫人と並ぶと少し華やかさにかけていた。アシュリーの容姿は明らかに母親譲りだった。
「しっかりした挨拶ができるのだな。四歳と聞いていたが、利発な子のようだ。これなら二つ上のアシュリーともうまくやっていけそうだな」
そりゃあ一応精神年齢は十六歳だし、これくらいは言える。
「すっかりアシュリーはあなたが気に入ったみたいね」
「はい、お父様お母様、私はコリンヌが気に入りました」
アシュリー様は私のところまで歩いてきて、手を握る。
「あの奥様は今何ヵ月なのですか?」
気になることを訊いてみた。
階段から落ちたのは子どもを産む前。その間を乗りきれば、彼女もお腹の子も助かるはずだ。
「八ヶ月目に入ったところなのよ」
ということは出産まで後二ヶ月。それまでは気を付けないといけない。
「ねえ、ご挨拶はもういい?コリンヌに邸を案内してあげてもいい?」
「ああ、もうすぐ夕食の時間だからそれは明日にしなさい」
「ええ~」
公爵に言われて明らかに不満そうにアシュリーが口を尖らせる。
「アシュリーはもうすぐお姉さんなんだから我が儘言わないの。ほらお薬も飲まないと」
「あれ苦いのよ。飲みたくない」
薬と聞いて驚いた。アシュリーが病弱だという設定だっただろうか。
「どこかお悪いのですか?」
言ってから訊いて良かったのかと不安げに見渡すと、夫妻は黙って頷く。
「薬さえ毎日きちんと飲んでいれば大丈夫なの。あなたもこれからアシュリーの側にいることになるのだから、覚えておいてね」
「はい」
毎日欠かさず飲まなければいけない薬があると聞いて、前世の自分を思い出す。苦い薬を飲まされて何度も検査のために血を抜かれた。体力もなかった。
別のメイドが持ってきたコップを彼女の前に差し出す。
「これはこの子のために特別に調合されているの。あなたはこの子が毎日欠かさず飲んでいるか確認してね」
「は、はい」
「お母様ひどい。コリンヌに見張らせるなんて」
「お嬢様、お嬢様のためなんです。頑張って飲みましょう」
良薬口に苦しという。良く効く薬ほど苦く感じるものだ。
「じゃあ飲んだらご褒美をくれる?なら頑張れるわ」
「ご褒美?」
「それから飲んでいる間、側に座って手を握っていて」
「ええ!」
「だめ?」
こてんと首を傾げて小悪魔のような上目遣いでそう言われたら、断りたくても断れない。
「コリンヌ、アシュリーの言うとおりにしてくれないか、いくらこの子とためとは言え、苦い薬を飲ませるのは可哀想でね」
「そうよ。それでこの子が飲んでくれるなら」
「わかりました」
三人に見つめられ、名前呼びに続いて今度も断ることができなかった。
その日から彼女が薬を飲む間、側に座って手を握っていてあげるのが日課になった。
彼女が言ったご褒美とは、飲み終わった後に頭を撫で撫ですることだった。ただし、するのはアシュリーで、なぜか私の頭を撫でられた。