月華の陰陽師2-白桜の花嫁-【完】

真紅は始祖の転生という立場で、過去世(かこせ)の記憶がある。

それも十六を迎えてからよみがえったもので、真紅はつい最近まで自分の出生を知らず、徒人(ただびと)――霊力も持たない人間として生きていた。

「天音さんの髪型、今日も綺麗だね。百合緋ちゃんすごいなあ」

「ありがと。天音、何やっても似合うから楽しいよ」

――普段、天音は百合緋についていてもらっている。

天音は白桜の一の式で、学内でも立場が男の白桜では離れなくちゃいけないときがあるから、天音は常に隠形して百合緋の警護にあたってもらっている。

つまりは今も、天音は隠形している。

その姿ですら見えるのだから、真紅の見鬼は並外れている。

学校へ通うとき、白桜は百合緋と一緒で、華樹、牡丹、結蓮とはばらける。

黒藤とは、始業前に庭園の四阿(あずまや)で落ち合うことにしている。

涙雨を渡せば白桜はお役御免だ。

「無炎(むえん)さんは今日も別行動?」

「ああ。華樹と一緒にいる」

無炎とは白桜の二の式。天音は隠形して百合緋の護衛を頼んでいるが、無炎は人型をとって生徒として学園にいる。

学内でいつも一緒、というわけではないが、無炎も月御門姓を名乗っている。

白桜たちの通う斎陵(せいりょう)学園は、ただようものが多いから。

真紅とは、学園の敷地に入ったところでわかれた。

百合緋は涙雨が心配だからと白桜についてきた。

「涙雨ちゃん、ほんとにずっと寝てるね」

「それだけ霊力消費が激しいんだろう。時空の妖異は不明なことが多いから、涙雨殿で知ることばかりだな。な、天音」

白桜が話を振ると、天音は姿を見せないまま声だけを届けてきた。

『ええ。わたくしも長くこの世界におりますが、時空の妖異に会うことはありませんでしたわ。まこと希少種という存在ですね』

「天音が知らないくらいって涙雨ちゃんすごいんだね、ほんと」

――それは、時空の妖異の存在が禁忌であることを示している。

過去の改変、未来の承知は、全般的に人間にはゆるされていない。

陰陽師は星から未来(さき)を読むが、相応の代償を支払っている。

それに、確定した未来を見ているわけではなく、あくまでその時点で見える未来、にとどまる。

未来は常に確定していないから。

行動ひとつ、言葉ひとつで、いかようにも変化してしまう。

その中で、時空の妖異は過去に飛び、未来に飛ぶ。神の領域に足を踏み入れた存在。

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