月華の陰陽師2-白桜の花嫁-【完】
「だが俺もまだまだくたばるわけにはいかない。やり返させてもらおう。そして――俺に負けたら一葉の言葉を叶えてやる、というのは?」
にこりとする白桜に、黒藤はひっくと頬を引きつらせた。
この騒動の一端に関わってしまっている黒藤だが、白桜がそう来るとは考えていなかった。
ぶっ飛ばされる覚悟はしていたけど。
『……ふん。そう言っておれるのも今のうちだ。我らは手加減はせぬ』
そう吐き捨て、交渉役だった烏天狗は高く飛翔した。
『一葉よ、さらばだ』
「おい――」
声を飛ばしたのは黒藤だった。
『今しばらく、待て』
言い残して、白桜は去っていく双葉の烏天狗をにらみつけるだけ。
「……え、と……」
そして戸惑っているのも黒藤だった。
「は、白……?」
「俺の誘いを受けたということだろう。今の返事は」
白桜の挑戦を受けた一言だった。
白桜は刀を一振りして、姿を消させる。
「天音、またしばらくは百合姫を頼む。こちらは無炎についてもらう」
「……承知いたしました」
「うん、頼むよ。華樹、牡丹にも今の事は伝えておいてくれ。双葉が受けたのは俺との勝負だ。お前たちに害悪はいかせない」
「……は」
天音も華樹も不承不承といった顔だ。
それに気づいた黒藤が口を出そうとするが――
「心配ない」
先に、白桜が二人に振り向いた。
「今しばらく待て、ということは、一葉とともにある道を望んでいるということだ。あの調子だから簡単に――手を抜いてはこないだろうけど、俺の使役にくだることに頑として意を唱えもしなかった。俺が相手になったことでみんなには心配をかけてしまうけど……大丈夫だ。俺だぞ?」
その、根拠というには乏しすぎる説明だったが、白桜をそばで見てきた天音と華樹には説得力があった。
白桜ならば大丈夫、という。
二人の表情から力が抜ける。