【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

初恋と青い花

 私は、幼い日の夢を見た。

 
「お姉さまばっかりずるいッ!あたしにちょうだいよ!」

 ミーティアが床に座り込んで駄々をこねている。
 その姿は、今よりもはるかに幼い。十歳前後くらいだろうか。

「これは、亡くなったお祖母さまがくれた花図鑑だもの。絶対に、いや」

「それじゃなきゃ、いやなのぉ!!」

 ぎゃーっという赤ん坊みたいな騒音が、その日はやけに癇にさわった。

 そうして気付けば、私は妹の頬をパンッと叩いていた。

 ぽかんと口を開けて呆けるミーティア。
 同じくらい、驚いた顔で固まる私。

 じんじんと熱を持つ右手。
 このとき私は始めて、他人を叩いたら自分も痛いのだと知った。


「あ”あ”あ”~~~! お姉さまがぶったぁぁあ!」

 
 騒ぎを聞きつけた侍女が部屋に飛び込んできて、大事になった。

 叩かれた、意地悪された、ひどい、を連呼するミーティアに、周りの大人は困り果て、すがるような目で私を見た。

「……あげればいいんでしょ」

 すさんだ気持ちで、私は図鑑をぞんざいに投げて渡した。

 欲しいものが手に入った妹は、ぴたりと泣き止む。

 大人達はほっとした顔で「さすがお姉さんですね」と褒めた。
 
(何されても、許してあげなきゃいけないの? 私だって、姉になりたくてなったわけじゃないのに!)

 姉なんだから妹を許さなきゃと思う良心と、虐めちゃえという残忍な悪意。当時の私の心には、天使と悪魔が同居していた。
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