【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 ある日、薪を割るシリィを見かけた私は――。

「シリィ、お手伝いするわ!」

 あっさり無視されてしまうが、それもクールでオトナっぽく見える。
 
「そうなのね。これが、『いちいちやり方なんぞ教えねぇ。見て技をおぼえろ』という”ショクニンだましい”なのね! さすがだわ、師匠」

「……」

 

 
 またある日は――。

「シリィ、いっつも何のご本を読んでいるの? 分厚い本ね。伝承もの? 冒険もの?あっ、それとも恋愛ものかしら?」

 彼は何も答えない。屋敷に戻って使用人に調べさせると、その本は宮廷陰謀を描いた推理ものだった。
 
 うちの蔵書にもあったその本を持って、シリィの隣に座る。珍しく彼が横目で私を見た。

「えへへ、同じ本がうちにもあったの。お揃いね! あっ、急いで読むから、結末はまだ言わないでね! ぜったいよ!」
 

 
 来る日も来る日も、私は必死に彼の背中を追いかけた。
 歩幅が違うから、ちょっと息を切らしながら、てくてく後ろをついていく。

 会話は少なかったけれど、シリィは私に色々な発見をくれた。
 
 今になって考えれば、彼は間違いなく私のことが嫌いで、うっとおしかったのだと思う。
 
 しかし当時の私には、子供ならではの無邪気さと前向きさがあった。シリィの負の感情をあさっての方向に解釈し、足元にじゃれつく子犬みたいにまとわりついたのだった。
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