【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

恋を諦めるための嘘

「アデル!」

 馬車まで向かう途中、誰かに呼び止められて振り返る。

 息を切らせて走ってきたのは、シリウスだった。

 日の光を受けて銀髪がきらめく。

 彼はいつもの騎士服ではなく、王子のみが着用を許される正装姿だった。

 黒地に金の刺繍のほどこされた礼服が、とてもよく似合っている。

 久しぶりに直視するシリウスは、どきりとするほど麗しかった。

 
「元気にしていたか、アデル」

「はい。シリウス殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます」

「そんな他人行儀な挨拶はやめてくれ」

「そういう訳には参りません。あなた様はもう、私とは違う次元の御方なのですから」

 わざと突き放すように言うと、シリウスが傷ついた表情を浮かべた。私の胸もずきりと痛む。けれどここは、心を鬼にしなければ。

「二人きりで話がしたい。時間をもらえないだろうか」

「申し訳ございません、所要がありますので」

「ではいつでも良い。予定は全て君にあわせる。時間をくれないか」

 私は返答に困り、どうお断りすべきか思案した。
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