【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 聖女のほほ笑みを顔に貼り付け、愛嬌たっぷりに走り寄る。

 振り返ったシリウスは、あいかわらずの無表情だった。
 
(マジ陰気な男。愛想笑いもできないのかよ。顔はメイナードより好みなのに、性格最悪だわ)

 心の中で悪態を吐きつつも、あたしは冷静だった。

 落ち目のメイナードにすがるより、勝ち馬に乗るべき。
 
 あたしは狙いをシリウスに定めた。


「シリウス殿下、どちらへ行かれるのです?……きゃあっ!」

 途中でわざとつまずき、可愛らしい悲鳴を上げながらシリウスに抱きつく。
 
 上目遣いで頼りなさをアピールし、さりげなく胸を押しつけて誘惑。庇護欲と性欲をかき立て『こいつは俺が守ってやらなきゃだめだ』と思わせたら既に落ちたも同然。
 
 男なんて、ほんと笑っちゃうくらい馬鹿で単純な生き物。

 ――のはずだった。


「ぎゃあっ!」

 
 蛙の潰れたような音が口からもれる。気付けば、あたしは誰もいない場所へ顔面からダイブしていた。

 鼻と額を打ち付け、ひりひり痛む。

 え? なに、どういうこと? と、頭が真っ白になった。

「悪いな、とっさに避けてしまった」
 
 みっともなく地面に座り込むあたしを、シリウスが興味なさげに見下ろす。

(クールイケメン? 違うわ。こいつは冷血漢よ。こんな可愛いあたしにまるで興味ないなんて、どうかしてるわ)
< 198 / 226 >

この作品をシェア

pagetop