【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「お嬢様、そろそろ帰宅した方がよろしいかと。今晩の夜会の準備をしなければ」

 背後から侍女のソニアに声をかけられた。私は振り返り、頷く。
 
 密偵であるソニアの仕事は、情報収集や秘密工作。本来なら表に出ることはないのだが、今はシレーネ様の命令で私の侍女と護衛を務めてくれている。

(シレーネ様……いいえ、『お父さま』ったら、心配性なんだから)

 親の愛を感じて、胸の内がほっと温かくなる。
 私は「さて、そろそろ帰りましょうか!」とソニアに声をかけた。

「では、馬車を呼んで参ります」

「ええ、ありがとう」

 ソニアにほほ笑み返し、私は心の中で『いよいよね……』と気を引き締める。

 小説では、初春の宮廷舞踏会でメイナードとミーティアの婚約発表イベントが起こる。つまり今日、メイナードが婚約を宣言したら、この世界は【黒薔薇姫】のシナリオどおりに進んでいるということ。
 
 
(小説の世界に転生したなんて、ちょっと信じられないけれど……)
 
 考えを巡らせていると、背後から足音が聞こえてきた。
 
 てっきりソニアかと思い笑顔で振り向いた私は、驚き固まった。

 そこに居たのは、ソニアではなく――美しい顔立ちをした、銀髪碧眼の男性だった。
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