【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
 急に現れた美貌の青年に目を奪われる私。
 じっと、こちらを見つめる貴公子。
 
 数秒の沈黙のあと、彼が口火を切った――。

「驚かせてすまない。俺はシリウス・イヴァン・アストレアだ」

 その名を聞いた瞬間、私はとっさに深々と(こうべ)をたれた。

 シリウス殿下が「かしこまらずとも良い」と制す。

「今日は公務ではない。公人(おうじ)ではなく、私人として墓参りに来た。そう固くなるな」

 そう言って、シリウスは私の墓の前に片膝をつき、花を手向けた。

 目を閉じ祈りを捧げる。

 彼の横顔を眺めながら、私は困惑していた。

 
(この国の第二王子が、どうして私のお墓参りに?)
 
 
 彼は、王子が身にまとうには質素すぎる出で立ちだった。白シャツにジャケットとズボン。お忍びというのは本当らしい。

 忙しい公務の合間を縫って、プライベートで訪れたのだろう。だとすれば、ますます謎が深まる。エスター時代、私はシリウスとは面識がなかったから。

 
 ひっそりと様子を伺っていると、シリウスが私を見た。
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