クールな黒淵くんは甘い。
そうやって私はずっと油断していた。
仮に春華ちゃんが黒淵くんのことが好きでも、黒淵くんが春華ちゃんを好きになることは絶対にないって。
そう思い込んでいた。だから、
「きゃー!やばい黒淵さんと春華さんが手繋いでる!」
そんな女子の声が聞こえて、弾かれたように、廊下に向かうと。
手を繋いで歩いている二人がいた。
黒淵くんは私も見たことの笑顔で
春華ちゃんは、恥ずかしそうに頬を赤くして俯いて。
スローモーションのようにゆっくり見えてしまった。音が何も聞こえない。息もまともにできない。
「二人って付き合ってるらしいよ〜。」
「えーてっきり秋華さんと付き合ってるのかと思ってたんだけど。」
「ほんと。意外だわ〜。」
やっと聞こえてきた声は、どこから聞こえてるのかも分からない女子の会話。
罰だ。
きっと罰が当たったんだ。
直感的にそう思った。
春華ちゃんが地味だから。
春華ちゃんが度胸がなさそうだから。
春華ちゃんは女子として魅力がないから。
そんな外面だけで黒淵くんが女の子を好きになるなんて思ってなかったのに。
ただゆっくりと、私が出来なかったことをしている彼女。
きっと私にはなくて、彼女にしかないものがあったんだろう。
それを黒淵くんが見つけたんだ。
手をぎゅっと握りしめて、重くなる心を誤魔化した。