クールな黒淵くんは甘い。

何も見えない。

何も聞こえない。
 
高校の始業式の後だった。私は初めて『誘拐』というものにあったは。手を後ろ手で縛られて、目には目隠しをさていて。

自分がどうなるか分からなくて、すごく怖かった。


『んで、この女どうする?』

怖い。

『いざとなったら脅しに使おうぜ。』

怖い。


私が自分が泣いていることにも気づかなくて、目の当たりが冷たくて初めて気づいた。


誰かに髪の毛をぐっと掴まれて、頬を叩かれた。初めて叩かれた痛みは、私を恐怖に落とし込むには十分で。

私は泣くしかできなかった。

そんな時だった。彼が来たのは。


ダンと大きな音がして、男たちの叫び声と焦り声、黒淵!なんて言う声が聞こえる。そのうち、うめき声なんかも聞こえた。


「おい、お前。」

目隠しを取られる。視界が急に見えて、一瞬くらりとした。

だんだん見える視界に映ったのは、黒髪に、ピアスをしていて、端正な顔をしていた、君だった。

一瞬、王子様か何かなんて思ってしまった。

そして彼は私の涙に濡れた顔を見て、ぎょっとしたのか、クールな顔を少しだけびっくりさせた。


そして指で私の涙を拭ってくれた。


「助けに来たから。大丈夫だ。」


そんな優しい声に安心してもっと泣いてしまったのを覚えている。


そのときから、私は彼に恋をした。


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