麻衣ロード、そのイカレた軌跡❺/二つの情念、炎上す

その１０
剣崎



倉橋と勝田、それにここにいる能勢は、もう麻衣が相馬会長の血縁ではないと承知している

だが３人は、俺を通して麻衣の”付き”になって、最近では俺が麻衣を呼び捨てにしてても、あくまで”お嬢さん”として接している

３人はこの春先から麻衣の行動にずっと身近で関わってきたことで、相馬さんと何の関係もないと知った後、むしろ日を追う毎にその素養へは一目も二目も置くようになっていった

変な話だが、アイツらは年がずっと下の少女にリスペクトの念さえ抱いているはずだ

しかもそれは、極道の世界で生きている男としてだ

特に倉橋と麻衣は、どこか感覚的にシンパシーを感じ合ってるようだな

それは、”仕事”を通じての信頼感が成立しているような仲と言えるのかもしれない

麻衣は、倉橋が大阪万博抗争で首に焼きゴテでやけどを負った経緯を知ってから妙に懐いているし、あの撲殺男も麻衣の一挙一動には感心しきっている…


...


その類い稀なイカレ娘による一応の集大成が今夜、この川原でということになるのだろう

南玉連合のトップを弾いてまで作り上げたこの舞台で、麻衣は単に南玉を不戦敗に追い込むだけを見込んでいるとは思えない

ヤツの気性からすれば、おそらくは、この舞台で誰かが今の自分に正面から挑んでくることを望んでいる…

おそらくは今日を目安にしながら、そうなる誘導をずっとしてきたはずだ

俺にはそんなふうに思えてならない

それは、他ならぬ相馬会長も同様だと考えていると…

俺にはそう思える

となれば…、間もなく麻衣の前に立ちふさがる少女は、ヤツの望む相手ということになるのだろうが…

果たして麻衣は、今夜ここで誰を相手に戦うというのか…

もうすぐはっきりする