笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
(ふふ。うれしいな)
 リシャールは背を向けていて気づいていないが、無意識に自分の頬が緩んでしまっていることに
アリッサは慌てた。ハッと表情を引き締めて、自分をいましめる。
(笑ったりしたらダメよ、アリッサ。私の使命は聖女の務めを果たすことだもの)
 貧乏貴族の娘だった自分が、リシャールの妻として高貴な暮らしをさせてもらっているのは聖女の能力のおかげだ。責務は果たさなければならない。

 わかっていても、訓練を重ねたアリッサでさえ感情を完璧に制御することは難しい。いつしか彼女は、リシャールが訪れる時間を心待ちにするようになっていた。彼が素の姿を見せるのは、かぎられた人間だけ。それを理解してからは、なおのこと。そこに深い意味などなかったとしても、彼の〝特別〟になれたような気がしたのだ。

 けれど、弊害は目に見える形で表れはじめた。アリッサの額の聖石の色が薄まっている。聖石の色は力の強さをあらわすのだ。
「このところ、シア海が荒れることが多いわね。昨日も船の事故で数名が負傷したらしいわ」
「あら。大聖女さまの手に負えないパワーが動いているとしたら、恐ろしいわね」
 侍女たちの雑談が耳に入り、アリッサがグッと自分の胸を押さえた。
(私の力が足りていないせいかもしれない)
< 15 / 25 >

この作品をシェア

pagetop