笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
 聖女はこのマイナスに作用するパワーを浄化することができるのだ。ゆえに聖女はとても大切にされる。大聖女と呼ばれる強い力があるものは、王族もしくは五大貴族のもとへ嫁ぐ栄誉が与えられるのが慣例だった。

 本来、リシャールの婚約者はアリッサより五歳年上のマルゴットという名の聖女だった。が、彼女は能力を制御しきれず身体を壊して亡くなってしまったのだ。その代わりに選出されたのがアリッサだったわけだ。
 この選出には裏事情があった。アリッサの婚約者候補であった第四王子のメルムは「いくら大聖女でも蝋人形だけは勘弁願いたい」と彼女を毛嫌いしていた。そこで彼は自分の母である王妃に頼み込み、王に「マルゴットほどの大聖女の代わりならアリッサしかいない」と進言してもらったのだ。 
 居丈高なほかの大貴族と違い、リシャールは人当たりのいい紳士だ。メルムは彼ならば「蝋人形なんか気味悪い」などとは言わないだろうと踏んだのだ。そして、その目論みどおりにリシャールはアリッサを歓迎し、ふたりの婚姻が成立した。

 リシャールは穏やかな笑みでアリッサに言った。
「ゆっくりで構わないよ。少しずつ、夫婦になっていけたらと俺は考えている」
 彼はアリッサの長い黒髪をひと房取ると、そっと口づけた。
「――では、おやすみ。アリッサ」
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