笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
彼はくるりと踵を返し、部屋を出ていく。アリッサはその背を見つめながら、無表情のままパニックを起こしていた。
(ど、どうしよう。これは大変な事態になったかもしれないわ。聖女になって十二年。初めて能力を失う危機に瀕してしまったかも――)
アリッサは膝からがくりと崩れ落ち、床に両手をついてうなだれた。その頬は、よくよく目をこらせばわかるかも?程度にほんのり赤く染まっていた。
(リシャールさまのそばにいたら、聖女の力を失ってしまう!)
聖女の能力にはその力を引き出す根源――マナが必要だ。これは聖女によって違う。植物からパワーをもらうもの、月の光や歌声がマナとなるもの。
アリッサのマナはちょっと特殊だ。彼女は自分の感情をマナとして力に変える。
あらゆる感情を内にとどめておく訓練を重ね、身につけた自分なりの力を蓄える方法がこの無表情なのだ。人とのかかわりを極力避け、蝋人形と揶揄されるほど顔色を変えない。こうすることで、アリッサは大聖女と呼ばれるまでの力を手に入れた。
聖女は自身のマナを人に明かしてはいけない決まりになっている。弱点になりうるからだ。そのため、アリッサも無表情の理由をひとに話すことはできない。周囲の人間はただ、「アリッサはものすごく根暗な性格なのだろう」と考えているはず。
(――大ピンチよ。彼にほほ笑みかけられたら、抑えようとしても感情が流出してしまうじゃないの! この結婚は大失敗だわ)
アリッサは途方に暮れた。
(ど、どうしよう。これは大変な事態になったかもしれないわ。聖女になって十二年。初めて能力を失う危機に瀕してしまったかも――)
アリッサは膝からがくりと崩れ落ち、床に両手をついてうなだれた。その頬は、よくよく目をこらせばわかるかも?程度にほんのり赤く染まっていた。
(リシャールさまのそばにいたら、聖女の力を失ってしまう!)
聖女の能力にはその力を引き出す根源――マナが必要だ。これは聖女によって違う。植物からパワーをもらうもの、月の光や歌声がマナとなるもの。
アリッサのマナはちょっと特殊だ。彼女は自分の感情をマナとして力に変える。
あらゆる感情を内にとどめておく訓練を重ね、身につけた自分なりの力を蓄える方法がこの無表情なのだ。人とのかかわりを極力避け、蝋人形と揶揄されるほど顔色を変えない。こうすることで、アリッサは大聖女と呼ばれるまでの力を手に入れた。
聖女は自身のマナを人に明かしてはいけない決まりになっている。弱点になりうるからだ。そのため、アリッサも無表情の理由をひとに話すことはできない。周囲の人間はただ、「アリッサはものすごく根暗な性格なのだろう」と考えているはず。
(――大ピンチよ。彼にほほ笑みかけられたら、抑えようとしても感情が流出してしまうじゃないの! この結婚は大失敗だわ)
アリッサは途方に暮れた。