笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
(と、城の人間に思い込ませることが肝要だ。これも領主の仕事のうち)
冷めきった心でそんなことを思う。
天使のように優しげな容姿を持つリシャール、見かけに反して案外と性悪だ。優しい微笑をたたえながら、腹のうちでは邪悪なことを考えていたりする。
リシャールはふぅと細く息を吐き、丸テーブルを挟んで向かい側に座るアリッサをしげしげと眺めた。
(前評判どおりの奇妙な娘だが……まぁ、いいだろう。本を読んでいるだけで無駄な金はかからない。俺に色目を使ってくることもなければ、うるさいことも言わない。考えようによっては、これ以上ない良妻だ)
リシャールは幼い頃から神童と称賛されるほど優秀だった。それゆえ、『誰からも愛される素晴らしい領主』を仕事として完璧に演じることができてしまうのだ。本来の人格とはすっかりかけ離れたものになっているが、それで万事うまくいくのであれば不満もない。彼の本性を知るのは幼い頃からの側近、アヴァンだけだ。
リシャールは仕事として、優しい声で妻に話しかける。
「アリッサはなにが好きだ? 食べものでも、本の趣味でも。よかったら教えてほしい」
「好きなもの? ――私は、美しいものが好きです」
冷めきった心でそんなことを思う。
天使のように優しげな容姿を持つリシャール、見かけに反して案外と性悪だ。優しい微笑をたたえながら、腹のうちでは邪悪なことを考えていたりする。
リシャールはふぅと細く息を吐き、丸テーブルを挟んで向かい側に座るアリッサをしげしげと眺めた。
(前評判どおりの奇妙な娘だが……まぁ、いいだろう。本を読んでいるだけで無駄な金はかからない。俺に色目を使ってくることもなければ、うるさいことも言わない。考えようによっては、これ以上ない良妻だ)
リシャールは幼い頃から神童と称賛されるほど優秀だった。それゆえ、『誰からも愛される素晴らしい領主』を仕事として完璧に演じることができてしまうのだ。本来の人格とはすっかりかけ離れたものになっているが、それで万事うまくいくのであれば不満もない。彼の本性を知るのは幼い頃からの側近、アヴァンだけだ。
リシャールは仕事として、優しい声で妻に話しかける。
「アリッサはなにが好きだ? 食べものでも、本の趣味でも。よかったら教えてほしい」
「好きなもの? ――私は、美しいものが好きです」