笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
 リシャールは少し驚く。これまで、『とくにない』『普通』『なんでも構わない』の三択の返事しかもらえたことがなかったからだ。まともな回答が返ってきたのは初めてだ。それに、今の一瞬だけ、彼女は蝋人形ではなくなった。瞳がキラリと輝き、口元がわずかに緩んだように見えたのだ。
 びっくりすると同時に、なんだか腹が立つ気もした。
(美しいものが好きなら、なぜ俺に興味を示さないんだ?)
 異性の好色な目つきはなによりも不愉快なものだが、まったく反応されないのもそれはそれで悔しい。人間とは、勝手でおろかな生きものなのだ。

 それから数か月。リシャールは変わらず、仕事としてアリッサのもとへ顔を出す。
(そう、これは仕事だ。よき夫であるという任務)
 まるで言い聞かせるように、リシャールは何度も心のうちでつぶやいた。
 彼女も変わらずに例の三つしか言葉を発さない。そして、王国一の美貌と謳われるリシャールを前にしても眉ひとつ動かさないのだ。
 それどころか、アリッサの視線はほとんどリシャールに向くことがない。
(アリッサの考える美しいものとは、いったいどんなものなんだ?)
 それがどうしても気にかかる。あれこれと手札を替えて聞き出そうとするが、やんわりとはぐらかされた答えしか返ってこない。

「俺に自分のことを知られたくない、ということか。なぜそんなに俺を嫌う?」
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