【SS】人食いの森
私の体は硬直して、見えているのに、目の前の出来事なのに、何もできず呆然としていた。



そのうち、赤い液体が飛び散って。

おじさんが両手で持っている岩が赤く染まっていって。


ルゥの声が、聞こえなくなって。

私を見つめる瞳から、光がなくなって。


おじさんが、肩で息をしながら、赤い液体のついた顔を私に向けた。




「お嬢ちゃん、大丈夫か?」


「る……ぅ……」


「なんでこんなところに狼がいたんだ……もう、大丈夫だからな」


「あ……あぁ……」




ルゥが、ピクリとも動かない。

瞬きをしない。


おじさんが離れた後に、ルゥににじり寄ってその顔に触れた。

べったりと、赤い液体がつく。
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