染まる紅葉
捨てられた小屋は、木々が切られている広い場所に聳え立っていた。
小屋は大小様々で、中には倉庫のような古びた鉄板で扉を追われた建物もある。
どうやら昔はここに人が住んでいたらしい。
祟りの神が現れてからパタリと姿を消し、今はもぬけの殻。
人の気配は確かにない。
だがおかしなことに苔で覆われた薄汚い壁の小屋から、悪臭が漂っている。
鉄臭いというか、動物の死骸のような気味悪い臭いに思わず鼻を手で摘んでしまった。
このままではまずい。
そう思った私はすかさずにワンピースのポケットに入っていた白の花柄ハンカチで、鼻と口を押さえる。
これで臭いは気にならない。
恐る恐る壊れた玄関の扉を開けて中に侵入。
壊れた瓦礫を跨いだり、しゃがんだりして奥にあるリビングへ向かう。
一番臭いがきついからだ。
好奇心旺盛な私はワクワクしながら進んだのだが、動物の様子を軽視していた自分をぶん殴りたいほどひどい有様だった。
リビングの机の上に、人間のような形をしたドロドロとした液体が乗っている。
頬と目がどこにあるのかもわからないほど、腐食していた。
気持ち悪くて吐きそうだ。
死んでから数週間が経っていると思われる。
「これ人の死骸よね。まさかあの男の子が……?」
行ってはいけないと言っていた男の子が犯人だろうか?
それとも他にいるのだろうか?
それは分からないけど、警察に連絡しなきゃ。
ずっと持っていた黒の手提げ鞄から携帯を取り出し、電波を見たら圏外だった。
ホラーあるあるじゃないの!ってそんなこと思ってる場合じゃない。
ここから逃げないと……。
後ろを振り返れば、壊れたリビングの扉の近くにあの少年が立っていた。
右手に包丁を握りしめ、切羽詰まった表情をしている。
見つかって焦っているのだろうか。
私も殺されるのだろうな。
だって死体見ちゃったんだから。
しかし彼は私が思っていた真逆の行動を取った。
「あいつが来る!逃げろ!ここは僕が守る!」
「え?」
意味が分からず聞き返すと、包丁を持っていない手で右腕を握りしめ近くにあった戸棚に押し込められる。
多少壊れているけど、ちょっとだけ居座るには最適な場所だ。
外から見えないし。
小さな穴がたまたまぽっかりと空いているのでそこから覗き込むと、さっきの少年が小柄の男性に強い口調で脅されている。
顔はよく見えない。
「おい、慎司。ここに女は来てねえのかよ!」
「……来てないよ」
「ちっ、使えねぇ餓鬼だな。まずはこの死体を地面に埋めろ。その後は、あの女を殺せよ。しないとどうなるか分かっておるか?」
「わかった、するよ……」
「そう言えばいいんだよ。ほらさっさと行ってこい!」
「でもどうして遺棄するの?」
「んなこと聞いてどうする!とにかく行けよ!お前は人じゃないんだからな」
男は怒鳴り声を立てる。
慎司君は肩を震わせながら机の上にある死体を袋に詰めて外へ運ぶ。
男の方はその様子を見ることもなく、一人煙草を蒸している。
なんて無責任な大人なのだろう。
子供にやらせるとは。
しかも少年を「人ではない」と差別している。
見た目が五十代ぐらいのおじさんだから、まだ昔の考えが残っているのかもしれない。
空の見方が違うだけで、なぜ差別されるのか。
未だによく理解できない。
小屋は大小様々で、中には倉庫のような古びた鉄板で扉を追われた建物もある。
どうやら昔はここに人が住んでいたらしい。
祟りの神が現れてからパタリと姿を消し、今はもぬけの殻。
人の気配は確かにない。
だがおかしなことに苔で覆われた薄汚い壁の小屋から、悪臭が漂っている。
鉄臭いというか、動物の死骸のような気味悪い臭いに思わず鼻を手で摘んでしまった。
このままではまずい。
そう思った私はすかさずにワンピースのポケットに入っていた白の花柄ハンカチで、鼻と口を押さえる。
これで臭いは気にならない。
恐る恐る壊れた玄関の扉を開けて中に侵入。
壊れた瓦礫を跨いだり、しゃがんだりして奥にあるリビングへ向かう。
一番臭いがきついからだ。
好奇心旺盛な私はワクワクしながら進んだのだが、動物の様子を軽視していた自分をぶん殴りたいほどひどい有様だった。
リビングの机の上に、人間のような形をしたドロドロとした液体が乗っている。
頬と目がどこにあるのかもわからないほど、腐食していた。
気持ち悪くて吐きそうだ。
死んでから数週間が経っていると思われる。
「これ人の死骸よね。まさかあの男の子が……?」
行ってはいけないと言っていた男の子が犯人だろうか?
それとも他にいるのだろうか?
それは分からないけど、警察に連絡しなきゃ。
ずっと持っていた黒の手提げ鞄から携帯を取り出し、電波を見たら圏外だった。
ホラーあるあるじゃないの!ってそんなこと思ってる場合じゃない。
ここから逃げないと……。
後ろを振り返れば、壊れたリビングの扉の近くにあの少年が立っていた。
右手に包丁を握りしめ、切羽詰まった表情をしている。
見つかって焦っているのだろうか。
私も殺されるのだろうな。
だって死体見ちゃったんだから。
しかし彼は私が思っていた真逆の行動を取った。
「あいつが来る!逃げろ!ここは僕が守る!」
「え?」
意味が分からず聞き返すと、包丁を持っていない手で右腕を握りしめ近くにあった戸棚に押し込められる。
多少壊れているけど、ちょっとだけ居座るには最適な場所だ。
外から見えないし。
小さな穴がたまたまぽっかりと空いているのでそこから覗き込むと、さっきの少年が小柄の男性に強い口調で脅されている。
顔はよく見えない。
「おい、慎司。ここに女は来てねえのかよ!」
「……来てないよ」
「ちっ、使えねぇ餓鬼だな。まずはこの死体を地面に埋めろ。その後は、あの女を殺せよ。しないとどうなるか分かっておるか?」
「わかった、するよ……」
「そう言えばいいんだよ。ほらさっさと行ってこい!」
「でもどうして遺棄するの?」
「んなこと聞いてどうする!とにかく行けよ!お前は人じゃないんだからな」
男は怒鳴り声を立てる。
慎司君は肩を震わせながら机の上にある死体を袋に詰めて外へ運ぶ。
男の方はその様子を見ることもなく、一人煙草を蒸している。
なんて無責任な大人なのだろう。
子供にやらせるとは。
しかも少年を「人ではない」と差別している。
見た目が五十代ぐらいのおじさんだから、まだ昔の考えが残っているのかもしれない。
空の見方が違うだけで、なぜ差別されるのか。
未だによく理解できない。