染まる紅葉
「やめてよ。おじさん」


尻もちをついた私の近くにやってきた慎司君は男を睨みつけ、威嚇した。

中学生ということもあり、そんな様子も可愛いく見えてしまう。

私頭おかしくなったのかな。

笑いが込み上げてくるとは。


いや、危機に面すると笑ってしまうとどっかのテレビが言っていた気がする。

あながち、おかしなことではないのかもしれない。


「おい、何がおかしい。こいつめ、潰してや……」


鉈を振り回していたおじさんの腹に包丁が刺さっていた。

あの少年だ。


彼は包丁を握りしめたまま、腹部に深く捻じ込んでいる。

男は鉈を手から離し、その場に倒れた。

腹部から包丁を抜き取り、血が噴水のように噴き出る。

それでも怒りが収まらないのか、少年は何度も腹を包丁で刺している。


よっぽどストレスが溜まっていたらしい。

私がやめなさい。

もう死んでいるよと言っても、獰猛の獣は聞く耳を持っていなかった。

私は無理矢理押し行き、背後から止めようとした。

そうして振り返った慎司君は、私の腹を包丁で刺した。

白いワンピースが赤く染まる。


腹部を確認すると、血が流れ何が起きたのか一瞬分からなくなる。

たくさんの血液が出るたび、私は意識が遠のきその場に倒れてしまった。

そのうっすらと開かれた目で見えたのは、泣きながら「ごめんなさい」の言葉を繰り返す慎司君の姿だ。


「ごめんなさい。君の友達を殺してごめんなさい。僕はお姉さんのことが大好きなんだ。これで一緒にいられるね。僕のたった一人の秋お姉さん」
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