The Tricks Played by Destiny
動物特有のぴくりと動く耳があたしに向けられる。


犬と呼ばれてヒゲがひくりと動いて、口を開かずともその声が聞こえた。


今の声は、と部屋の中をぐるりと見渡すけれどだれもいない。
この部屋にはあたしとこの犬しかいないから、この声の主は犬に間違いないんだろうけど……。



「しゃべったっ!」



普通、犬はしゃべらない。



「当たり前じゃ、ぼけぇ」



思わず不思議なしゃべる犬、じゃなかった狼を見つめてしまう。
当たり前だ、という不思議を見つめていた。

それに、あたしが知る狼とは一回り二回り以上大きかった。見たことのない、大きさ。


けれど、考えてみればここは川の向こう。あたしの今までの常識は通用しない。


狼が話して当たり前だ。
狼が大きくて当たり前だ。

…………多分。
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