The Tricks Played by Destiny
呆然としていた時間はたった数秒だけかもしれない。
我に返るとたぐり寄せていた毛布を手放してしまった。



「犬っころに見られた」

「狼だ、っつってんだろぼけぇ!」



独り言のように呟いたつもりだったのに、小賢しい狼は扉の向こうからでもあたしの声を拾って突っ込んできた。

さすが狼、さすが獣。
聴覚は超一流らしい。

変なところで感心してしまった。

今まで考えもしなかった、話す動物がいるということに。
常識が通用しないということに一抹の不安を感じるけれど、狼が話すということは本当にここは川の向こう側。



あたしは自由を手に入れた。



これからを考えると、嬉しさで、言葉もない。
どうなるのか、は考えない。

今は自由だけを噛み締めていたかった。
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