The Tricks Played by Destiny
くちゅん、とくしゃみが多発するほどにあたしは佇んでいた。
言われた通り、着替えようと腰を上げたとき、何かがずり落ちるような気がして後ろを振り向くと、毛皮が床に落ちていた。あたしが無意識にたぐりよせた毛布、……毛皮?
黒い毛皮。


くま……?


くま、だって。

これもあの狼がやってくれたことかな、と考える。どうやって仕留めたのかなんて考えない。薄ら寒いことになる。

水に落ちて身体が冷え切ったあたしに火を起こし、毛皮をかけて…………。

って火を起こし?

獣は火を恐れるんじゃないの?暖炉に火を付けるなんて芸当できるわけ……。
常識は通用しないんだっけ、ここは。
狼って万能ね、とそこで思考はとめておく。


なんにせよ、あの川辺からこの家……小屋みたいだけど、に連れて来て暖めてくれたのはあの狼が一枚噛んでるのは間違いない。


あとでお礼を言わなくちゃ、と頭の片隅に置く。


それにしても。

あたしは、人と少し違って感覚が鋭い。
それは、向こうにいるときから分かっていたこと。

なのに。


目を閉じて、見えない感覚を伸ばす。この小屋の意識を探るもわからない。
この回りにあたし以外のものが感じない。さっきの狼さえもわからない。

何も感じない。

不思議だった。
ここは本当に、不思議なところだった。
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