The Tricks Played by Destiny
質素なワンピース。
あたしが来ていたドレスとは比べるまでもない、そこらの女の子が来ているような。
唯一のお洒落はウエストで結ぶリボンくらい。

けれど、あたしはこういうものに憧れていた。
普通の生活。

誰かに好まれて、誰かに好意をもって接することができる生活。
それは、以前のあたしからはとても遠くにあったものだから。

胸が震えた。
あの川を越えたら、こうも簡単に手に入るとは。
今までのあたしの生活からは考えられなかった。

嬉しかった。




着替えるとき、気付いた。


あたし、傷が治ってる?
それだけでなく傷痕すらない。どこを怪我したのかさえもわからなくなってる。
頬を擦っても傷は見当たらない。それどころか、しばらくは治らないだろうと思っていた手首足首の化膿した傷も綺麗に。
身体にできた無数の小さな傷痕さえなくなっている。

あの野郎の城へ行く前の状態に戻っていた。
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