The Tricks Played by Destiny
そんなに時間が経っているはずはないと思う。
経っていてもせいぜい、1日2日。たったそれだけで、傷が塞がり、かさぶたができ、治るわけがない。

治るはずがない、とあの野郎は言った。
これを見て俺を思い出す、と。

あの野郎に付けられたお腹の傷に指を這わせた、つもりだった。



「ない……」



付いていない。
自分のお腹を勢いよく見下ろしたけれど、そこには傷一つないきれいな皮膚があった。


ここにきてようやく、あたしは恐ろしいところに来たと感じてきた。あたしの知らない世界。
世間が、化け物と迫害する世界。

そのとき一段と大きな音で暖炉の火が爆ぜた。
その時の思考もあいまって、あたしはその場に腰を抜かした。
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