The Tricks Played by Destiny
「にんげん……?」



思っていたものと違うことで力の抜けた声が出た。
見上げた状態のまま、ただ茫然とその今までに見たことがないようなきれいな顔を見つめる。
あたしもずいぶん、いろんな人を見てきたけれど。
これほどまでの人は見たことがない。

陛下は見たことがないからなんとも言えないんだけれど。


そんなあたしの様子を馬鹿にしたように、鼻を鳴らす。
驚いて、目を瞠るとその顔からは想像もつかない悪態が飛び出した。



「ふんっ、お前らのような下等な生物と一緒にするな。小娘、ここへ何しに来た。人間くさいお前のせいで、森がうるさいわ」



一気に言葉が紡ぎ出さる。綺麗な顔から飛び出す言葉はひどく偉そうで、口が悪い。

顔に見惚れていたあたしは、今度はその口の悪さに驚いて言葉が出ない。
初対面の人間にどうしてそこまで言われなきゃいけないのか、わからない。

それ以上に、知らないところで期待していたらしい。
きれいな顔からそんな言葉は飛び出るはずがない、と。


以前として続く、鋭い射殺すような視線をあたしから逸らしてくれたのは彼の後ろから入って来た、狼。
殺気だった美青年を宥めてくれる。



「まぁまぁ怒んな、ジーク。飯にしようぜ、腹が減った」

「ふんっ、俺はもういらん」

「それもこれもお前のいう下等な生物のおかげだろ?」



踵を返したジークと呼ばれた美青年は何も言わずに、あたしの視界から消えた。
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