The Tricks Played by Destiny
走りながらも自分が立てる物音以外に水の流れる音を耳に捕らえて、あたしはそちらに向かった。

あてにならない方向感覚も、このときばかりはあたしに優しかった。
この森で水の音、といえば。



それにしても。今、この森であたししか音を立てていないんじゃないかと思うくらいに静かだった。もしかしてもう、追って来ていないかもしれない。



いいや、そんなことは有り得ない。
わかっていても甘い期待に立ち止まる。上がる息を整えるために数度深呼吸をしたら地面に耳を宛てて目を閉じた。



聞こえるのは、数騎の蹄の音。……5騎。
まだ奴らは諦めてないことを悟るとあたしはまた駆け出した。

今は木々が邪魔してあたしになかなか追いつけていないけれど、それも時間の問題。

馬と比べたら、追い付かれてしまう。
それでもまだぎりぎりのところ。一縷の望みをかけて川へと向かった。


不可侵の森を遮る川を渡れば追って来れない。
これは誰もが知っている常識だ。

普通の神経を持つ人間は決して渡ろうとしないから。


だから、速く、見つかる前に。



そうは言っても、あたしと追っ手の考えることは同じだ。
川を渡れば逃げられるならば、川を渡る前に捕まえようとするに違いない。


もう、時間は残されてなかった。
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