The Tricks Played by Destiny
なんだったのか。
あたしに文句を言うためだけにここに来たのか。

言いたいことを言いたいだけいって、最後にはあたしを見下して。


狼と人間との言い合いに口をはさめずただあちらこちらに視線を彷徨わせているうちに怒った口調のきれいな顔をした彼はあたしの前から消えた。


視界から消えるだけでなく、ふとその存在、気配ととも消え去った。
それだけじゃない。このドアを開ける前も気配を感じなかった。物音さえ聞こえなかった。

さっきもドアから出て行った狼の気配を辿ることができなかった。
獣だから、ここが川の向こうだからと自分を無理やり納得させてみたけれど。


あたしは、気配に敏い。
遠くでも、その気配を辿ることができるくらいに。

なのに、感じない。
もう、彼がどこにいるのかさえわからない。


ぶるりと身震いして、寒気立つ。



「着替えたか？ぴったりだな。なら飯にしよう、」



柔らかい声音に、向き直れば鋭い牙が見えるけれど不思議と恐怖は感じない。
急かすように座り込んだ背中をぐいぐいと鼻先で押されて促される。

目の前で展開されていく事柄にうまくついていけない。
けれど、ご飯にするから行こうってことだけはわかった。

けれど。
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