The Tricks Played by Destiny
「待ってよっ、腰抜けて立てないのよっ」



首を捻りながら狼のその毛皮を視界の端にとらえて、声を上げた。

気配、は感じる。
目で捉えていればその気配は肌に突き刺さるくらいに感じるのに。
見えなければこの狼も感じなくなる。

思考の端で考えに捕われ抜け出せなくなっているのを知ってか知らずか。


狼はぴくりと耳を動かして、尻尾を一振り。
横から顔だけ出して、ぼけぇ、と一言。



「ジーク、ジーク!運んでやってくれよ」

「…………」



いやいや、ジークってさっきの不機嫌な美青年ですか。人間がっ、と見下されたばかりで少しばかり逃げ腰になりますけれど。

腰が抜けて立てないにも関わらず、思わず逃げたくなるあの眼。
また、睨まれるのかと思うと泣きそうになってきた。


あたしの、思いと裏腹に物事は進んでいく。
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