The Tricks Played by Destiny
枝を草を掻き分けてあたしは力が入らない両足を叱咤して、懸命に走った。



動きやすいようにひらひらとして機能的じゃないドレスではなく、シンプルなメイドが着ているようなタイプを選んで着たものの。


いつのまにかあらゆるところが破れている。
裾はぶざまに破れ、草のすり潰した匂いに泥が跳ねたみたいで汚い。


それに、さっきやられた頬の傷から血が流れ、鉄っぽい味が口の中に広がっている。
手も足も、脇腹にも服を越えてできた傷が無数にあった。


けれど、それもあの川を越えたら。



前方に木々が途切れて、太陽の光が十分に降り注いでいるのが見える。
水が勢いづいて流れる音もすぐ近くに聞こえる。



川辺だ。


力が入らなくてがたがた震えている膝に、力が入る。
最後の力を振り絞ってる。あと少し、持ちこたえれば。

そう考えれば俄然力が入った。



木々から走り抜けたとき、風があたしの頬をぶった。
木々が生い茂り、薄暗かった不可侵の森の中を走り続けた目はいきなり降り注ぐ太陽の光は眩しすぎて、目を開けていられない。

腕で影を作りながら、薄目で確認しながら。
徐々に徐々に太陽の明るさに慣れさせていけば。



広がった視界に映ったものを見て、一歩、二歩進んであたしはその場にへたり込んでしまった。



もうだめだ。おしまいだ。
捕まってしまう。
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