The Tricks Played by Destiny
あたしを囲む4人は剣を鞘から滑らせるように抜いてすり足で近づいてくる。
じりじりと近付きながらタイミングをはかっているのは、剣技の心得がないあたしにでさえわかる。

隙を見せずにただ、ひたすらに小隊長らしき男を睨み続けた。
奴の乗っている馬が落ち着かず、左右行ったり来たりを始め、奴は手綱を引いて止まれ、と指示を出し続けている。



捕まって、奴らの思いのままになるよりは。
そう思うとあたしはずるずると4人を視界に入れたまま奴から目を逸らさずに後退る。



「諦めて、ご主人様のところへ戻りな」



落ち着いたらしい奴の馬にようやく声を上げた。戻ったあたしの運命を知っておきながらその言い草に、言い返さずにはいられなかった。
ありったけの侮蔑を込めた叫び。



「嫌よっ、せっかく逃げ出してきたのだものっ!あんなゲス野郎のところに戻るくらいなら死を選ぶわ」



突然、騎手のいない4頭の馬が興奮し、駆け出して森の中へと消えていった。

驚いたのはあたしだけでなく、4人の私兵も同じ。剣を持つ手に動揺が走る。

それだけじゃない。
小隊長が乗っている馬も乗り手を振り落とそうと前足を高く上げていなないた。

愛馬を落ち着かせようと躍起になって手綱をとり、あたしへの注意が途切れる。


その隙にとあたしはお尻をずらして、じりじり下がる。
後ろでついた手はいつの間にか、ぎりぎりのところまできている。
指先が、地面を捕らえていない。

崖っぷちにあたしは今、座り込んでる。
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