The Tricks Played by Destiny
手にじんわりと汗が滲んできて、緊張と恐怖がないまぜになった感情にあたしは困ったように小さく笑った。



谷底から絶壁を伝って吹き上げる風があたしの髪を舞い上がらせる。



金色の髪。
憎い、この髪。
鏡で覗くたび、この髪を憎んだ。

あたしに、相応しくないとあざけ笑うかのように光り輝いていた。

この髪さえなければ、と何度も思った。



「変な気を起こす前に捕らえろ」



どうにか馬を宥めた奴が顔を上げ、あたしを見た瞬間。慌てて声を張り上げた。迷いを、驚きを帯びた4人の剣に再び緊張が走り、その役目を果たす。飛び掛かられる、その前に。


足で地面を渾身の力で蹴りだし、あたしは真っ逆さまになって重力に従って下へ下へと落ちていった。



あたしが最後に見たものは、驚いた表情をして覗き込んだ4つの顔。
あんたの思う通りにはならない、と忌ま忌ましいゲス野郎に一矢報いた気持ちだ。

ああ、どうせなら最後に奴に唾でも吐きかけてやればよかった。



落ちながら、考えた。
もう奴のことを考えるのはこれで最後だ。


あたしは、今から自由になる。
遠くなる顔の表情が判別出来なくなるころ、目を閉じて衝撃に備えた。
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