オタクが転生した結果
それから5年の月日が経った。

マルゲリット達の悪役令嬢化計画により、クリスティーヌは劇的に変化を遂げている。化粧やドレスのデザインに悪役令嬢っぽさを残しつつ、本来のクリスティーヌの美しさを存分に生かした仕上がりは、王子に限らず、多くの男達を虜にしているらしい。

マ「これだとただの魔性の女じゃない!」

ジ「何でこーなった!?」

エ「色々試したけど、もう出し尽くした感があるわよねー」

ヒロイン登場まで残り一年。マルゲリット達は焦っていた。

マ「クリスティーヌ様、、何であんなに優しくていい子に成長してしまったの?」

エ「しかも、さりげなくクロエがいい仕事してんのよ。私仕込みとはいえ、あのヘアメイクはなかなかのもんだわ」

ジ「あれは完全にヒロインキャラだね。悪役令嬢では絶対ない」

マ「そんなのわかってるわよ!」

解説しよう。

本来クリスティーヌは、閉鎖的な領地で性格のきつい母親と過ごしているはずだった。抑圧された環境は少しずつ彼女の性格を歪ませ、見本となる女性が母親しかいなかった事もそれを増長させた。

婚約を機に王都に出た時、クリスティーヌはその負の感情を爆発させてしまう。身分の高さを盾にして弱い者を虐めぬく事で物事を思うように進め、自らの尊厳を守ろうとしていたのかもしれない。

その結果、悪役令嬢クリスティーヌが誕生する事となったのだ。

では今回、クリスティーヌが悪役令嬢になれなかったのは何故か。

クロエがクリスティーヌを変な方向に歪ませたのは事実だが、彼女にとって同年代の少女と過ごす時間は、間違いなく日々の彩りとなっていた。

そしてマルゲリット達との関わりも、当然彼女に影響を与えている。

クロエのせいでニャロメ様化していたクリスティーヌは、マルゲリット達に(けな)されて、自信を喪失してしまう。この時、本来の上下関係が逆転してしまったのだ。

しかもマルゲリット達は実際の彼女達に比べ、あまりにも強く強烈だった。クリスティーヌにとっての絶対強者であるマルゲリット達が常にそばにいた事は、彼女を弱者たらしめる所以(ゆえん)となる。

そもそも、普通なら拒絶して然るべきニャロメ様化を、疑う事なく受け入れたクリスティーヌは、元から素直で優しい天使だったのだ。

天使だったクリスティーヌをクロエが守り、彼女が強者となる事をマルゲリット達が防いだ。

全てが裏目に出てしまった事に、彼女達も薄々気付き始めている。

マルゲリット達の努力で見ためだけは悪役令嬢風に仕上がったクリスティーヌ。今は魔性の女と化しているが、着々と正統派ヒロインとして成長を続けていたのだった。
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