番犬として飼った彼は、オオカミでした
第一話
○学校からの帰り道(放課後)
真央「日本に残るのダメって言われた〜。このままだと、海外に連れて行かれる・・・」
玲央「そりゃあ、女子高生の娘一人残して、海外出張なんて行けないだろ・・・。まだ、諦めてねぇのかよ?」
真央「だって・・・、海外なんて行きたくない!」
放課後、幼馴染の玲央と学校からの帰り道を歩いていた。私が不貞腐れているのには理由がある。
○(回想)2週間前の我が家
父「真央、ごめんよ。お父さん海外転勤になってしまった」
真央「・・・こんな時期に珍しいね?お父さん一人で海外に住むとか大丈夫?」
外資系で働くお父さんの会社は、海外転勤があった。管理職だったので、今まで行くことはなかったけど、今回は時期はずれに、急遽決まったらしい。
お父さんは、一人で海外転勤に行くものだとばかり思っていた。そんな、私の耳に届いたのは、信じたくない言葉だった。
父「いや、真央にも着いてきて欲しいと思ってるんだ。1年だけだから・・・。ね?」
真央「えっ?私いやだよ?お母さんだって、海外暮らしなんて嫌だよね?」
父「お母さんはあの通り・・・。お母さんの希望なんだよ」
お父さんが指差す方に視線を向けると、ふんふん♬と鼻歌を歌いながら、海外旅行雑誌を見ているお母さんの姿があった。
真央「ちょっと?お母さんも海外転勤に着いていくつもりなの?」
母「うん。だって、海外に住むの夢だったんだもの。こんな素敵な機会逃す訳には行かないわ」
真央「私、海外なんて行きたくないよ?そうだ、私、一人でここに住むよ」
母「真央だけ日本に残るのは・・・。女子高校生が一人暮らしはね・・・。ちょっとね」
父「高校生で一人暮らしなんて、絶対ダメだ。お父さんが許さない。変な男が寄ってくるに決まっている」
真央「———海外なんて行きたくない!」
海外転勤には着いていかず、このマンションに一人残りたいとお願いしても、断固拒否された。
私は未成年で高校生。女の子の一人暮らしを男関係に厳しいお父さんが許してくれるはずもなく、話し合いは横ばい状態。
このままでは、私も連れて行かれるだろう。
真央(でも、私は絶対海外なんて、行きたくない。ずっと片思いしてた爽太先輩と、せっかく付き合えたのに、離れ離れなんてなりたくない。)
ずっと片思いしていたサッカー部で人気の爽太先輩と少し前から付き合っている。彼と離れたくないのも、海外に行きたくない理由である。
(回想終了)
○学校からの帰り道(放課後)
玲央「そんなに日本に残りたいなら、俺が助けてやろうか?」
真央「えっ?ほんと?」
玲央「俺がおじさんを説得してやるよ」
真央「玲央〜、お前って奴は!良い幼馴染だ!ありがとう」
玲央とは部屋が隣同士なだけではなく、親同士も仲良しで幼い頃からの付き合いだ。外面の良い玲央は、私のお母さんとお父さんにも、気に入られて信用されている。
○真央の家(夜)
玲央にお父さんを説得してもらうため、家に遊びにきてもらった。普段からたまに遊びにきて一緒にご飯を食べたりするので、玲央が我が家にいることは珍しくはない。
父「おお、玲央君、きてたのか。」
玲央「お邪魔してます。海外転勤の話、真央から聞きました」
リビングで一緒にテレビを見ていた玲央は、お父さんが帰ってくると早速話を切り出した。
父「そうなんだよ。真央には申し訳ないと思うんだけどね、さすがに高校生の女の子が一人暮らしって訳には行かないからね・・・」
玲央「おじさんは何が心配なんですか?」
父「そりゃあ、変な男が寄ってこないか心配だよ。女子が一人暮らしなんて知ったら、男は狼になってしまうからね」
玲央「・・・狼か。僕が狼を追い払う、番犬になりましょうか?」
真央・父「へ?」
玲央「真央が狼に狙われないように、僕が番犬代わりに一緒に住みますよ」
父「・・・・・・いや、でも。玲央君も幼馴染とはいえ、男だからねえ」
玲央「一緒に住むなら、勉強も見ますよ?」
母「まあ、まあ、学年1位の秀才が勉強も見てくれるの?玲央君なら変なことはしないだろうし、いいんじゃない?」
横で聞いていたお母さんが『勉強も見ますよ。』の一言で、番犬賛成派に一気に傾いたらしい。声も高らかに応援している。
玲央は学年1位常連の優等生。私は万年赤点ギリギリの補習常連組。玲央に家庭教師の役目をお願いしようと思ってるのだろう。
玲央「おじさんも分かると思うんですけど、僕の父は月の半分は出張でいません。一人でいるのは慣れっこなんですけど、隣の真央までいなくなると思うと・・・、少し寂しいです」
目に涙を溜めて儚げな表情を浮かべた。お母さんは「まあ。」と心配そうな顔をしている。玲央の口車にまんまと乗せられているようだ。
子供の頃は、玲央のお母さんも一緒に家族ぐるみの付き合いをしていたけど、玲央が中学生の時、離婚した。お父さんは仕事で多忙のため、家に一人でいることが多いのは本当だ。
母「そうよね。今までは、たまにうちでご飯食べたりしてたけど、これからずっと一人は寂しいわよね」
父「いきなり海外暮らしになるなんて、真央には申し訳ないと思ってる。でも・・・、やはり・・・。うーん」
お母さんの言うことに弱いお父さんは、悩み始めている。
真央(これは、いけそう?・・・いや、でも番犬ってなに?そんな話聞いてない!)
真央「ちょっと待って!!」
どんどん進んでいく話を一時中断させた。私の呼びかけに、シンと静まり返る。
真央「玲央!ちょっときて!」
玲央の腕を無理矢理引っ張り、自分の部屋へと連れていく。
○真央の部屋
真央「ちょっと、玲央!どういうこと?」
玲央「どういうことって・・・。真央のためにおじさん説得してるんだろ?」
真央「番犬って何よ?」
玲央「あぁ、おじさんは女の一人暮らしだから、寄ってくる男関係を気にかけてるんだろ?そこを崩さないと、海外行き決定だぞ?」
真央「うっ、そうだけど・・・・・」
真央(玲央の言うことは一理ありすぎて、反論出来ない。)
真央「それに、『寂しいです。』って嘘でしょ?涙も浮かべちゃってさ」
玲央「あっ、バレてた?演技上手いと思ったけど」
玲央は外面は優等生を演じてるけど、本当はいじわるで、少し強引なところがある。そして、頭がいいだけあって、計算高い。
真央(やっぱり、嘘だった。お母さん、まんまと玲央に乗せられたなあ)
真央(私が何回お願いしても、折れなかったお父さんが、玲央の話を聞いて悩んでいた。玲央の言う通りにすれば、海外に行かずにすむかもしれない)
真央「玲央と一緒に住むなんて・・・、私、彼氏いるし・・・」
玲央「あぁ、お前と先輩が付き合ってることは黙っててやるよ。彼氏がいるってバレたら、海外行きは即決定だろうけど。大好きな彼氏と離れたくないんだろ?」
人の悪い笑みを浮かべた。彼氏がいるなんて知られたら、彼氏を作るなんて許さないお父さんに、海外に連れて行かれてしまう。
真央(爽太先輩とは離れたくない、海外にも住みたくない・・・・。日本に残る方法は———)
玲央「俺が番犬代わりに、一緒に住んでやるよ。 」
真央「・・・・・でも」
玲央「まあ、決めるのは真央だけど?」
そう言ってニヤリと微笑んだ。その顔はよく知っている。玲央が何かを企んでいる時だ。
真央「一緒に住むだけだよね?」
玲央「あぁ、番犬だからね?」
真央「・・・番犬か。海外に行きたくないし、ここは玲央の策略に乗る!番犬として飼う」
玲央「分かりました。・・・わん♬」
犬の真似して「わん」と言った玲央は、不敵な笑みを浮かべていた。その表情を見て、少し後悔し始めるのだった。
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