キミと放送室。
「いつからっ……?」
慌ててソファから立ち上がると、弾みで教則本が床にバサっと落ちた。
「今さっき」
名波先輩はそう言うと床に落ちた教則本を拾ってパラパラとめくりながら私に視線を向けた。
「ちょっと興味本位っていうか…鳴るかなーって思って…」
私が取り繕うように言うと、「貸して」と手を出されたので、ギターを渡した。
「名波先輩、弾けるんですか?」
無言でさっきの私と同じようにソファに座り、教則本を広げて何かのコードを押さえてゆっくり弦を弾く。
「「鳴らないじゃん」」
スタジオに響いた不協和音に同じセリフがこぼれ、思わず2人で吹き出した。
「弾けないよ。俺もやったことないし」
「今、弾ける雰囲気出してたのに」
「出してない。てか、メダカよりは鳴ってると思うんだけど」
もう一度弦を弾くと、確かに私がやったときよりは音らしい音が鳴っている気がする。
私は「貸してください」と、もう一度ギターを受け取りチャレンジしてみるけれど、やっぱり鳴らなかった。
「ま、そんな簡単なもんじゃないって事だな」
いつの間にかソファで隣同士で座っていた名波先輩が、悟ったようにそう言った。