キミと放送室。
次の日のお昼休み。
私は昨日と同じようにスタジオのソファに名波先輩と並んで座り、ギターを抱えていた。
「何か、昨日より音がキレイな気が…」
私が上から順番に弦を弾きながら言うと「気付いた?」と得意げに名波先輩が言った。
「軽音部の奴に聞いてチューニングした」
「チューニング?」
「このネジみたいなやつ回して弦の張り具合を調整すんの」
「ほぉ…」
「遊びで弾く分にはこんなもんで十分でしょ」
昨日の今日だけど、いつの間にチューニングしたんだろう。
もしかして、お昼休みだけじゃなくて授業もここでサボってるんじゃないかとすら思えてきた。
人を見かけで判断するのは良くないけれど、失礼ながら真面目に授業を受けているようなタイプにも見えないし。
「名波先輩って、何者ですか?」
私はギターを名波先輩に渡した。
「何それ?」
笑いながらそう言った名波先輩はギターを受け取り、私と同じように1本ずつ弦を弾いた。
「放送室に居座って寝てると思ったら、急にギターやり始めたり…」
「ギターやり始めたのはメダカだろ」
「そうですけど…。あと、私、日高です」
「知ってる」
名波先輩はギターを壁に立てかけると、両手を天井に伸ばして、ぐーっとソファの背もたれに背中を預けるように欠伸をした。
「ただの暇つぶしだよ」
「暇つぶしって…」
暇つぶしでチューニングまで?
「てかさ、どうせやるなら目標決めよ」
「目標?」
名波先輩は教則本をパラパラ捲ると、あるページを指差した。
「これ。弾けるようになるまでやるか」
そこには“happy birthday to you”の楽譜が書かれていた。
私は思わず笑ってしまったけれど、「わかりました」と返事をした。
突然始まったギターレッスンだけど、私はどこかワクワクした気持ちになっていた。