キミと放送室。
「そんなとこで2人でしゃがんで何してんの?やらしー」
名波先輩はすぐに立ち上がり「お前のせいで何も出来なかったわ」と返す。
2人とも笑ってるところを見ると、どうやらジョークとして処理されたらしい。
男子の会話はよく分からない。
「放送室に航以外の人が居るの珍しくね?」
2人のやりとりをしゃがんだまま見ていた私をチラリと認識したオレンジ頭の生徒が「こんちわー」と挨拶してきたので、慌てて立ち上がって「こんにちは」と返事をした。
名波先輩にフッと笑れたのが分かった。
私の目の前に来たオレンジ頭の生徒は「俺、葉山 悠平です!よろしく」と自己紹介をした。
グリーンの上履きを履いているということは、3年生なんだろう。
「あ…私は、日高 栞です」
「栞ちゃん!え、何?放送委員?」
「は、はい」
「へぇ〜、コイツずっと寝てんでしょ?邪魔じゃない?」
あくびをしながら机に腰掛けている名波先輩を指差す葉山先輩。
「えっと、特に害はないというか…」
「アハハ。それなら良かった。昔からロングスリーパーなんだよね」
「そうなんですか」
葉山先輩は休む間も無く喋る。
「あ!ちなみに俺と航は中学から一緒で、バ…「お前、喋りすぎ。ナンパしに来たのか俺に用事あんのかどっち?」
話の途中で名波先輩が葉山先輩の背後から首を羽交締めにした。
「イテテ、分かった分かった!菅ちゃんが呼んでたんだって」
葉山先輩がそう言うと「げ。面倒くせー」と声を漏らした名波先輩。
“菅ちゃん”とは生徒指導もしている確か3年生のどこかのクラスの副担任だ。
「航スマホ見ないから俺が迎えに来たんじゃん」
「あー電池ないもん。
行くわ、メダカ。鍵よろしく」
「あ、はい」
いつも通りそう言った名波先輩は、葉山先輩と放送室を出ていった。
ポツンと取り残された私。
何だかこの数週間で急に3年生の知り合いが増えてしまったな。
そして数分前の出来事が蘇る。
勘違いかもしれないけれど
キス、されると思った。
あのまま葉山先輩が来てなかったら…
何を考えているのか分からない名波先輩の言動に、私の脳みそはパンク状態だ。