キミと放送室。
「えーっと…CDは」
機械の足元にCDが沢山並んでいて、お昼休みの間、BGMとして音楽を校内放送で流す。
これが今日から私に与えられた放送委員としての仕事だ。
言われてみたら、今までもお昼休みの間ひっそりと音楽が流れていた…ような気がする。
しゃがみこんでCDを吟味しているとガラガラと放送室の扉が開いたのと同時に、暗幕がシャッと音を立てた。
入ってきたのは男子生徒だった。
セットしているのか、寝癖なのか分からないフワフワとした髪。
染めている感じはしないけれど、キラキラと茶色かかった色だ。
前髪の隙間からは切れ長の目が見える。
ズボンは制服だけど、上はパーカーだ。
私はしゃがみ込んだまま、びっくりして動けなかった。
「あれ。新しい放送委員?」
その人は慣れたように、入って正面にある窓をカラカラと開けると、私の真横に並んでしゃがみ込んだ。
ただ目で追いかけるしか出来ない私をよそに、「今日はこれだな」とCDを1枚手に取った。
「え、あの…」
あっという間に音楽が鳴り始める。
ボリューム調整も完璧だ。
「はい、完了」
彼は、自信満々の顔つきで左手でスピーカーを指差した。
「ど、どうも…じゃなくて、私の仕事なんですけど」
「いいじゃん誰がやっても」
そのまま奥のスタジオスペースのソファにボフッと横に寝転がった男子生徒。
「…もしかして、今までもアナタが音楽かけてたんですか?」
「うん。俺がここで寝たい代わりに放送委員の人の仕事代行してるだけ」
そういわれてみれば、前の放送委員の子、お昼休み普通に教室に居たような気もしてきた。
「アンタも別に音楽流すくらい俺やるから来なくてもいいよ」
「え、いや…それは困ります」
「なんで?」
「…お弁当食べたり、宿題したり、本読んだりするつもりだったから」
「ふーん。じゃあ、ご自由に。俺はここで寝るから」
なんて自由な人なんだ。
パーカーのフードを目深にかぶり、寝る姿勢の男子生徒を横目に、私はとりあえず持ってきたお弁当を広げて、「いただきます」と両手を合わせた。