キミと放送室。
6
「栞ちゃん栞ちゃん、みてー。新しいリップ」
休み時間、ボーッとグラウンドを眺めていたら紗良が楽しそうに私の机にやってきた。
「そうなの?紗良は何でも似合うね」
「ふふ、ありがとー」
紗良はオシャレが好きで、メイクも毎日変化している。
そういう努力ができる子だ。
「お前、それ言わせてるだろ」
と、隣の席から有島くんが会話に入った。
「有島うるさい。栞ちゃんを見習って褒めることを覚えた方がいいよ」
「俺はね、褒める時は褒める男だから」
「どうだかー。…あ!悠平くんだ!」
紗良が窓の外を見てそう言うと、その視線の先に向かって「おーい!!」と大きな声で手を振った。
私もつられて窓の外を覗きこむと、ジャージ姿の葉山先輩がジャンプしながらこちらに手を振っている。
隣には名波先輩がいて、私はギョッとして顔を引っ込めた。
「あれー?あの子って」
外から葉山先輩がそう言っているのが聞こえた。
私の隣で同じように外を覗いていた有島くんが「知り合い?」と聞いてきたので「いや…分かんない」と誤魔化した。
昨日コソコソしてると指摘されたばかりなのに。
「悠平くんは私の中学の先輩だよー!バンドとかもやっててカッコいいんだぁ」
紗良が嬉しそうに手を振り返している。
「仲良いの?」
私が聞くと、「うんっ、実は…今いい感じなの」と両頬に手を添えてそう言った。
「へ、へぇ…」
紗良と葉山先輩が?
ということは名波先輩のことも知っているんだろうか。
気になるけれど、知ってても知らなくても色々根掘り葉掘り聞かれるのが目に見えている。
「栞ちゃん、悠平くんのこと知ってるの?」
「し、知らないよ」
「ふぅん、あ!今度ライブ見にいくから一緒に行こうよ」
紗良が思いついた!というように両手を合わせて言った。
「ライブ?」
「悠平くんのバンドのライブ!有島も行く?土曜日だよ」
興味なさそうに聞いていた有島くんは「俺?んー、…日高さんが行くなら」と言った。
「じゃあ、決まりーっ」
紗良はそう言うと私の返事を待たずに自分の席に戻っていった。