キミと放送室。
8
ライブという物を見るのは初めて。
ライブハウスはどこの壁も何故か黒色で、チラシがいっぱい貼ってあって、
階段も急で、狭い。
そんな環境が、非日常感を演出している気がする。
分厚い防音扉を開けると、確認作業なのか定期的にドラムやギターの単音が鳴る。
私が放送室で触るギターはアコースティックギターだから、スピーカーから聞こえるギターの音色は全く別物に思える。
て、…思い出してしまった。
名波先輩に、みっともない姿を見せたこと。
「大丈夫?日高さん」
「えっ?」
「元気ない?」
有島くんが明らかに口数が減った私を心配して声をかけてくれた。
「大丈夫!ゴメン、緊張しちゃって」
「分かる。俺もライブ見るの初めてだから」
会場の1番うしろの壁際に2人で並んでそんな話をしていたら、どこかに行っていた紗良が戻ってきた。
「お待たせ、悠平くんにあいさつしてきたんだぁ」
嬉しそうな紗良を見て、有島くんが
「なんか俺ら、遠藤の恋の駆け引きに使われてるみたいだな」と私に耳打ちした。
恋の駆け引きなんていうフレーズが有島くんから出ると思っていなくて、思わず笑ってしまった。
「2人して何コソコソ笑ってるのー」
紗良が頬を膨らませた。
「何でもない。紗良が恋する乙女だなって話をしてたんだよ」
と、私が答えると紗良は
「なにそれ〜!その通りだけど」
と言って笑ってみせた。
「もうすぐ始まるから、前の方に行こっ」
紗良は私の手を引いて、有島くんはその後ろを保護者のように着いてきた。