キミと放送室。
「落ち着いた?」
駅前の広場にあるベンチに座ると、有島くんは途中にある自販機で買った温かいお茶をくれた。
「うん…ごめんね。迷惑かけて」
私が小さな声で言うと、
「俺は全然いいけど、月曜日遠藤に騒がれるかもな」
と言って軽く笑った有島くん。
確かに。
有島くんと途中で帰ったことも、名波先輩と一悶着あったことも、きっと色々聞かれるに違いない。
「それにしても。日高さんがあんな風に話してるの初めて見た」
「え…」
「俺、日高さんのこと普段から結構見てて…いや、見てるっていうと語弊があるんだけど、その…ほら、隣の席だし」
少し焦ったように取り繕った有島くんは続けた。
「常に一定というか、感情もあんま表に出さない感じがあって。だから、たまに笑ってくれたりするとすげー嬉しいんだけど」
私は、両手で握っていたお茶のペットボトルを見つめたまま有島くんの話を聞いた。
「けど、さっきあの人…名波さん?と喋ってるの見たら、純粋にスゲーなって思った。日高さん、怒ったり泣いたりするんだなって」
「そりゃするよ…人間だもん」
「そうなんだけどね。
でもそれってさ、あの人が日高さんにとって大きな存在ってことじゃない?」
いつの間にか私の目の前にしゃがんで、反対側からペットボトルを私の手ごと握った有島くん。
「2人がどういう繋がりなのか俺は知らないけど、どうでもいい相手に怒ったりしないし、涙なんて流れない。
そんで…だけど、その感情は、恋心ではあってほしくないと思ってる」
握られた手は、微かに震えているのが分かった。
「俺、日高さんのことが好きだから」
真っ直ぐ私を見てそう言った有島くんに、私は何も答えることができなかった。