キミと放送室。
「そんなの、私も同じです」
「名波先輩が一緒に弾いてくれたから、楽しかったんです」
「私はっ…、ギター弾けないバンドマンでも笑ったりしないし、いつだって一緒に練習します」
そうだ。
次回が楽しみだったのは、名波先輩がいたからだ。
ギターをやるだけじゃない。
名波先輩と一緒に練習するギターが楽しかったんだ。
名波先輩が、肩から額を離して私を見た。
「何それ。告白?」
いつもの名波先輩の意地悪な笑顔だ。
「な、なんでそうなるんですか」
慌てて一歩後ろに下がった私に、名波先輩は「メダカ、逃げんな」と言って私の右手を掴んだ。
「俺を見て」
そう言われるがまま、名波先輩を見つめると、私の頬を先輩の指が触れた。
心臓のばくばくが収まらない。
「名波先輩……なんで、フード被ってるんですか」
「髪セットしてないから」
「え…見たいです。取って良いですか?」
「じゃあ、キスしていい?」
名波先輩はいつだって思いついたまま喋る。
固まった私を見て、名波先輩はまた笑った。
「な、何でキスするんですか」
「好きだから」
「キスが?」
「アホか。メダカのことが」
当たり前のようにそう言われ、聞いておいて恥ずかしくなったけれど、うれしいと思った。
「………私、メダカじゃないです」
「は?」
「名前で、呼んでください」
私が勇気を振り絞ってそう言うと、名波先輩は困ったように「…どこでそんな技覚えたんだよ、栞」と被っていたフードを取った。
もう一度私の頬に触れた名波先輩の手はさっきよりも温かく感じる。
そして、触れた唇。
2回、3回と角度を変えてするキスに、思わず名波先輩のパーカーを、ぎゅっと握った。
すると、スッと離れた先輩は「ヤバい。これ以上は」と言ってまたフードを深く被ってしまった。
「メダカ、…じゃなくて栞」
「いいですよ、メダカで」
「明日は放送室でギターやろう」
先輩の手のひらが私の頭に乗っかった。
「もちろんですっ」
私は笑顔でそう返事をした。