キミと放送室。
「日高さんって放送委員だよね?」
隣の席の有島くんから、そう話しかけられたのは翌日の朝礼前の事だった。
有島 蒼一郎くん。
寝癖ひとつない黒髪と、爽やかなルックス。
気さくで優しくて頭も良い。
おまけにスポーツ万能。
隣の席になって、話す機会が増えて少し浮かれているのは自覚している。
「うん。一応、ね」
緊張しているのを悟られないように、短く返事をした。
「お昼休みのあれって、何でもいいの?」
「あれって…BGMのこと?」
「そうそう。いま日高さんが流してるんでしょ?」
「えっ、なんで知ってるの?」
私が思わず有島くんの方に体ごと向くと、
有島くんは、「昼休みに、栞ちゃんだーって遠藤が大声で言ってた」と笑いながら答えた。
遠藤は紗良の名字だ。
「はは…紗良ってば」
私はゆっくりと体を正面に戻した。
有島くんがわざわざ私の委員会なんて覚えてるわけがないのに、少し期待してしまった自分が恥ずかしい。
読んでいた本に視線を戻すと、有島くんは椅子ごと私のすぐ隣に近づけた。
「な、なに?」
突然の至近距離に、思わず読みかけの本をパタンと閉じてしまう。
「俺がCD持ってきたら、流してくれたりもするの?」
内緒話するトーンでそう聞かれて、私も同じトーンで話す。
「あ…うん。いつもは学校の流してるけど持ち込みもOKだよ」
「まじ?流したい曲あるんだけど、いい?」
「う、うん」
「やった」
少年のように嬉しそうに笑った有島くんに、私もつられて笑顔になった。
「じゃあ今度持ってくるから」
「分かった」
自分の席に椅子を戻した有島くんを少し名残惜しく眺めていたら、有島くんが私にもう一度視線を向け、ふっと笑った。
「え?」
「いや、本。どこ読んでたか分かんなくなったな」
そう言われて、手元に視線を落とす。
そうだった。有島くんが急に近くに来たから驚いて閉じてしまったんだ。
私が「ほんとだね」と言うと、有島くんは「ごめん」とまた笑った。
密かに憧れていた有島くんと、こんな風に話が出来る日が来るなんて。
私はニヤけそうな顔を見られないように、窓の外を眺めて心を落ち着かせた。