僕のお嬢
(つゆ)がしょっぱかったカツ丼を綺麗に平らげ、次に向かったのはお義父さんのお墓がある寺。そこの住職さんと千里(ちさと)お義母さ・・・じゃなかった、お(ねえ)さんは昔馴染みらしい。

この辺りは坂も多くて、お寺は登りきった上にある。見晴らしがいいからか、空きの少ない優良墓地だ。霊園と比べれば、ぎゅうぎゅうに詰まってる感は否めないけど。

細かい砂利を敷いた駐車場には他にも数台。水汲み係の新太を放って、花を抱えた都筑と先に行く。奥に向かって三列目の、六番目か七番目が八島家のお墓だった。

「あら」

立ち止まった都筑が呟く。

花立てがあるのに水鉢の上に寝かせた、包装紙に包まれたままの花。香炉からたなびく、匂いの独特な紫煙。

今さっきまでここにいた筈の先客を、思わず振り返って探す。その吸いさしの銘柄には憶えがあった。

「まだいるよ!」

「えっ?ちょっ・・・、待ちなさいお嬢!」

都筑が呼び止めるのも聞かず、足が勝手に走り出した。反対側の入り口から駐車場に下りたんだと思う。間に合う、絶対つかまえる!

段差を駆け下り、ガンメタのSUV車の方に歩いてく黒っぽい背中めがけ、思いっきり叫ぶ。

佐瀬(させ)っっ」
< 13 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop