僕のお嬢
息を切らすあたしを前に、面倒臭そうに肩で息を吐いた男。

「わざわざ追いかけてくンなよ・・・」

「あんた、あたしが電話したってガン無視してくれたよねぇ!今までどこで何やってたのか言ってごらん?!」

数年ぶりの再会。嬉しいより何より悔しくて腹が立った。歳も八コくらい上で、背だって都筑と変わらない、そいつの胸ぐらを掴んで睨み上げた。

洗いざらしの黒シャツにカーキ色のチノパン、素足にサンダル。うねったクセ毛をワックスで後ろに流すだけのヘアスタイルも、顎髭も、死んだように見せかけてるその眼も相変わらず。

「貴子に教える義理もねーだろ」

「うっさい、あんたがどう思ってよーと、こっちは縁切ったつもりはさらっさら無いんだからねっっ」

一瞬、佐瀬の眼差しが揺れたのを見逃さない。

「お姐さんにまで心配かけてる“放蕩(バカ)息子”が、エラそうな口叩くんじゃないよ?」

「あー・・・悪かった」

低く凄むと観念した親不孝者。ようやくあたしも手を離し、鼻を鳴らす。

佐瀬は深町組の若頭だった男で。解散を決めた時、佐瀬について行きたがった若衆もけっこういたのに、黙って消えた。ずっと行方知らずのままだった。
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