僕のお嬢
組長だったお義父さんの命日はまだ先だし、誰とも鉢合わせしなさそうな日を狙ったんだろうけど、お生憎様。これはもう、おじいちゃんが引き合わせてくれたに違いない。

「いいから遠慮しないで殴っちゃいなさいよ、お嬢・・・っ」

追いついてきた都筑は深呼吸しながら、物騒なセリフを口走ってる。

「威勢がいーねぇ茜」

若頭(カシラ)の育て方のせいかしらぁ?」

「・・・みてぇだな」

値踏みするように、シニカルに口角を上げてみせた佐瀬。

「そのツラで極道にしがみついてられるなんざ、大したモンだ」

「あら、光栄。お嬢を見捨てて知らん顔してるダレカさんに褒められるなんて」

あたしより一歩前に出て、都筑が嘲笑(わら)った。

昔は佐瀬の後ろをついて回るヒヨッコだったのに。
都筑は都筑のままだと思ってたのに。

急にあたしだけが時間に置いてきぼりにされてる気がする。

「・・・好きに言え。ベツに痛くも痒くもねーよ」

シャツの胸ポケットからボックスを取り出した佐瀬は気怠げに、抜いた煙草に火を点ける。

取り合う気はまるで無さそうだった。ゆっくり紫煙を逃すと、あたしを見て目を細めた。

「オレはオレで勝手にやってンだ、構うな。貴子もお嬢の看板はとっくに下ろしただろーが」
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