僕のお嬢
「もうオマエらの若頭(カシラ)じゃねーぞ?オレに絡むなよ、ガキ共」

乱れた襟元を払う仕草で溜息を吐き、気怠げに踵を返した男。

「都筑さん、いーんスか?やれっていうなら止めるっすけど」

「・・・やめときなさい、アンタじゃ腕一本も落とせないから」

今度はサバイバルナイフをちらつかせた弟分をたしなめる都筑。なんなら一番アブナイのは、このチャラ男だからね?里沙。

聴こえてるだろうに、余裕の背中を向けてる佐瀬にあたしは声を張った。

「お姐さんの店に顔くらい出しなよっ?元気だったって言っとくから!」

ひらひら振られた左手。

「あたしは、お嬢でもお嬢じゃなくても、なんにも変わんないから大丈夫っっ。あんたは狂犬なんかに戻っちゃダメだからねっ、外道に堕ちたら死んでも赦さないよ・・・っ」

ほっとけ。

見えないのにシニカルに笑った気がした。

乗り込んだ車を荒っぽく発進させ、あっという間に駐車場からいなくなる。こっちを振り返りもしないで、あの日みたいにあたし達を置き去りにして。

「ほんと、逃げ足速いんだから」

都筑が腰に手を当て、大きい息を吐いたのをあたしも釣られた。

「お義父さんにお願いしとく、佐瀬がバカな真似しませんよーにって」

「お嬢は甘いのよ」

とっくに恨んでもない。あたしを道連れにしなかったワケを今は分かってるから。
< 18 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop