僕のお嬢
ふたりして箸が止まり、一瞬、傷付いたような瞳を俯かせた里沙が「やけくそ・・・かなぁ」と独りごちる。

「アラタ君じゃなかったら誰でも同じだし、結婚しないとパパ達がかわいそうだし、どっかで諦めないとズルズルだし。・・・打算だけど、でも」

もう決めた。そんな目をして小さく笑う。

「今だなぁって思ったのも運命?後悔しないって約束するから、安心してマチコちゃん」

ふわふわしてても芯は頑固者な里沙。

付き合った彼氏は何人かいたけど、どれも続かなかったのはやっぱり、新太への恋心が譲れなかったせい。極道者じゃなきゃ、のし付けて喜んでくれてやったのに! 見えない拳をぐっと握りしめる。

最初で最後のデートでケジメつけたいなら、里沙の女を立ててやらないと。ふっと息を吐き、あたしはわざと勿体つけた。

「・・・いいよ分かった。新太に電話してくるから待ってて」

スマホ片手に席を立つと、店の表に出る。ここは飲食ビルの三階で、エレベーター前の狭いホールにはちょうど誰もいなかった。

『っす、お嬢。どーかしたンすかー』

ツーコールで応答した、相変わらず軽口の男。

「あんた明日はヒマだよねぇ?」

『エ?あー、明日っすか?明日はバイ・・・』

「ヒマ!だよねぇぇぇ?」

『・・・・・・・・・ヒマっす・・・』
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